ピーキング(1)

 動画共有サイトでクライマーのトレーニングを調べたり、身近な修羅に話を聞いたりしてみても、各々てんでバラバラなことをしているように見える。

 共通点があるとすれば、ピリオダイゼーションを意識していることくらいだが、とはいえこれにしても、以前書いたように魔法でもなんでもなく、ピークを作るべくトレーニング計画を設定しましょうと、それくらいの話であるように思われる。

 

 ピリオダイゼーションといってもやり方はいろいろで、それぞれに特長があるから、それについてちょっと調べてみた。本当はその前にトレーニングサイクルのことをまとめにゃならんのだが、まあ思いついた順に書いていこう。

 

・クライミングのためのピリオダイゼーション

 

 一般にピリオダイゼーションといったら、マクロサイクルの下位のメソサイクル(およそ4週間くらいの感じ)を持久力、筋肥大(ストレングス)、パワーに分けて、3か月後にピークを作るとか、そんな流れが思い浮かぶ。それって実は必ずしもクライミングに最適ではないように思うのだな。

 

 たとえば筋肥大して、パワーをつけて、それから持久力フェイズに入る、という順序だと、持久力が上がる頃には高めたストレングスはけっこう落ちてしまう。クライミングはこれら3つの要素をすべて使うから、相応の工夫が必要になると考えられる。

 

 いちおうキーになりそうな考え方として、エネルギー代謝機構のことは覚えておいた方が良さそうである。何となく有酸素と無酸素のミックス、と考えるよりは、自分がいまどんな動きをしているのか落とし込みやすくなるので。

 

無酸素運動―非乳酸系。ATP-CP系。クレアチンリン酸の分解→ADP→ATP。このATPをエネルギー源とする。最大の運動強度で8秒ほど。

 

無酸素運動―乳酸系。解糖系により、酸素を使わずにグリコーゲンを乳酸に分解し、エネルギー源とする。最大の運動強度で33秒くらい。ただし運動負荷を落とすと無酸素と有酸素の混じった運動になり、これだと乳酸系は2時間半くらい持続するらしい。

 

有酸素運動―酸素を利用してATPを産生する。

 

 運動においてはどれかひとつという使われ方ではなく、割合の問題になるらしい。ボルダラーは無酸素の世界に棲んでいると考えてよさそうだ。リードクライマーにしても、自分が思っているよりは無酸素乳酸系の領域にいるんじゃなかろうか。「持久力(2)」にも書いたとおり、無酸素と言われると「息しないのか」と思ってしまうがそうではなくて、酸素の量が足りなくなる位の高強度、という意味である。

 

 それから、上記はフィジカルにしか焦点を当てていないから、スキルや柔軟性、メンタルについて、どんな風にミックスしていけばいいかという問題は手つかずのままである。

 これらは前提としてしまうにはあまりにも巨大で、それゆえに全て組み込もうとすると簡単にキャパオーバーになりそうである。ピリオダイゼーションというよりは、漸進的に伸ばしていくもののように見えるが、少なくともこの記事では触れない。トレーニング計画は、盛りだくさんにしすぎると、すべきことでがんじがらめになって失敗するからなあ。

 

 もともと従来型のピリオダイゼーションは持久系の競技用に考案されたものだから、クライミングにそのまま当てはめるのはちょっとためらわれる。上記の3つのエネルギー生産系のどれをいちばん使うかによって、調整することが肝要だろう。

 

 仮にルートクライマーで目標課題がひたすら持久系のロングルートなら従来型のピリオダイゼーションでいいかもしれないが、ハードなボルダーセクションが冒頭にあるならパワー重視だし、後半に出てくるならパワーエンデュランスに焦点をあてるべきかと思う。

 

 ともあれ、まずは現状分析をしないと始まらなくて、やり方は、文献をあたればいろいろ出てくる。ひとまずどこが弱点なのかを洗い出すのである。結局は弱点に取り組むという話になるのだな。

 ピリオダイズするときに弱点克服に注力することで、よりバランスのとれた状態で目標課題に向かえるようになれば、成功といっていいのだろう。

 

 もっと言うとこれは、たとえばバランスのとれたスポートクライマーになりたいか、ボルダーの特定の課題を登りたいかで、見方はまるで違ってくる。

 現状分析を行って、スラブ、足置き、マントルが苦手だと分かったとしても、目標課題がどっかぶりで、リップの先はまっ平らで、ツライチのど真ん中を直上していくラインで、それを登るためだけにトレーニングを考えるなら、洗い出された弱点にフォーカスする必要はなくなる。

 

 逆にクライマーとして全局面的に向上したいと願うなら、弱い環の法則を持ち出すまでもなく苦手に注力すべきで、こんどは得意を落とさないような努力が必要になってくるものと思われる。(続く