豈図らんや

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」

山本五十六

 

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 山ばなしのつづき。

 

 このところすっかりヒルクライムが億劫になって、車道を行かずにちょっとした山道を歩いて登っている。歩きだと運動強度は下がるし、道中は車も人も来ないので疲れたらかんたんに休めるし、結果として汗冷えの心配も減るしで、そういう形になっている。要は強度をだせない言い訳である。

 

 岩のほうは登れる課題をサーキットして現状維持をめざしている有様なので、からだは少しずつもとに戻ってしまっている。おまけにおなじムーブばかりくりかえしているせいか、靴のソールが削れてつま先のゴムの一部がボゴンととれそうになってきた。力をかけると動くので登りづらい。不意にはがれでもしたら洒落にならない。

 

 この靴を買ったのはたしか2018年だったから、およそ4年半使ったことになる。長いと見るか短いと見るか、筆者のレベルではなんともいえない。新調する余裕はないので、さらに昔に買った靴をひっぱりだしてみようと考えている。

 

 そんなわけでクライミングというよりはサイクリングとハイキングになっていて、さて帰るかとトボトボ歩いていたら、先日のおづんつぁんに再び遭遇した。結論、今度も道をまちがえていたと判明。標識通りに登っていくのではなく、広いゆるやかな道をまわりこめばよかったとのこと。道理で時間がかかったわけだ。親切に下まで連れて行ってくれた。感謝。

 

 道すがら聞いておどろいたのだが、このおづんつぁん、齢80を過ぎており、数日まえに剣山に登ってきたばかりだという。曰く、つるぎはどの季節もいいが、冬がいちばんいいのだそうだ。

 

 さらにおどろいたのは安静時の心拍数が40だということで、山登りのために毎日トレーニングをしていたら、3年くらいでそうなったらしい。やり方は

 

1 早足で登って

2 心拍数が上がったら

3 頑張らないでペースを一気に落とす

4 脈拍が落ち着いたら1にもどる

 

 をくりかえすというもの。要はインターバルである。

 

 曰く「キツうなったときに頑張ったらアカン。それで翌日休んだらからだが戻ってしまう。そうならんように毎日つづければ、頑張らんでもスイスイ行けるようになる」との由。

 

 どうも筆者は根が根性なしゆえ、頑張るのをやめるのがむずかしい。追いこむのをやめると次におなじところまで頑張れなくなるような気がしてこわいのだ。

 

 さりとてあまりにゆるふわでもいかんのだろうから、このあたりの塩梅は、例によって各自で見つけるしかないのだろう。やれやれ、参るねえ。

 

 オマケとして開脚からの前屈の仕方を教えてもらった。おづんつぁんは身体が地面にぺたんとつくほど柔軟である。これもやはり頑張ってはいけないそうだ。

 

 「己は開脚はできるが前にいかない」といって自分もやってみせると「頭をつけるんやのうて胸をちかづけるんや」との返事。たしかに、すこし感覚が変わった。これは、ひょっとして、やってりゃできるやつか。

 

 「90になっても登るよ」と聞いて、なにやら勇気づけられた。己もいちど剣に行ってみたくなった。