パワーエンデュランス

 課題のムーブはできるのに、つなげられないとき(以前の記事でいう1のとき)、パワーエンデュランスの出番がやってくる。

 

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 4×4やサーキットトレーニングをおこなうと、むずかしくてパンピーなルートを容易に感じられるようになるといわれている。パワーエンデュランスのトレーニングは、比較的高強度の連続した動きに筋肉を適応させ、ATPをうまくつくれるようにして、供給される酸素量がすくなくても、筋肉が収縮した状態から元に戻れるようにするところに眼目があるもよう。

 

 まあ、こういうのは、実際の状況を再現することによって適応するという点では、目標課題のレプリカをつくって練習するのと、考えかたにさしたる相違はない。乳酸のたまる苦しい動きに慣らされると、ATPをつくるために筋肉たちは普段よりもエネルギーを蓄えるようになるらしい。たしかミトコンドリアが頑張るのだったかな。このへんはまた別の機会にまとめよう。

 

 トレーニングの順序だが、ベースとなるソリッドな体幹とパワーづくり(瞬発系)のあとにパワーエンデュランスを高めるフェイズに入る。これは限界の50〜80%くらいの領域のトレーニングである。登っていて前腕が張るのがパワーエンデュランスの強度の目安となる。セッションの間は例によって48〜72時間あける。週2からはじめて、適応の度合いに応じて週3に増やしていく。

 

 この能力は2〜3週間で伸びるが、なにもしないとおなじくらいの期間で失われるらしい。オイオイ本当かよ。あまり登りこんでいない場合、水準を保つため、2週に一度はパワーエンデュランスのトレーニングをとりいれるようにするといいそうです。

 

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 一般に、持久力でもパワーエンデュランスでも瞬発力でも、トレーニングは継続が大事で、長くつづけていれば能力は落ちにくいし、間を空けても戻りやすくなるということは明らかになっている。マッスルメモリーというやつですね。

 

 そのなかでもパワーエンデュランスは覚えやすく忘れやすいうちに入ると、そういうことなのだろうか。ちょっとよくわからない。神経系のトレーニングだと、4〜6週間で伸びたものは、数か月くらいはもつようなのだけど。

 

 こういうのは普段の登りの強度にもよる気がする。このあたりを考えつつトレーニングをミックスして、特定の時期に総合的なピークをもってくるのがピリオダイゼーションで、トレーニングサイクルの先にこれが来るものと思われる。

 

 まあそんなことをいっても、われわれ非トレーニーにとっては、トレーニングサイクルを確立するところからしてすでに難題である。

 

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 そうそう、以前とりあげた4×4ですが、バリエーションを見つけたのでついでに紹介しておきます。

 

 4つ課題を選んで(a、b、c、d)

 

aを4回

2分休む

bを4回

2分休む

cを4回

2分休む

dを4回

5分休む

 

 これで1セット。これを3セットおこなう。以前に挙げたものと効果がどうちがうかまでは不明。4×4はポピュラーなトレーニングの割には定義がふんわりしている気がする。

 

 まあ、自分にとって比較的高強度の動きを連続して、すみやかにパンプせざるを得なくなって、その状態で壊れない範囲で頑張って動きつづける、という趣旨が守れていればOKということなのだろう。その先の細かいちがいまで研究される日は、まだしばらく来なそうである。

 

 われわれとしては、ジムがすいていればこのバリエーションを使う、というくらいが現実的だろう。こういうのはトレーニングの刺激を変えるにはちょうどいいから、知っておいて損はないと思われる。

 

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 続いてサーキット。

 

 5つ課題を選ぶ。ひとまずレッドポイントグレードより3つくらい下の課題からはじめる。5つをつづけて登る。おわったら登っていた時間の半分だけ休む(これはカウントしづらいな…)これを4セット。終わったら5〜10分休んで、また別の課題を5つ選んでくりかえす。パンプして落ちたらこの練習は終了。

 

 サーキットの強度調整は、レストを減らすか、課題の強度を上げることでおこなう。ピークを作るときはレストを減らす、それ以外のときは課題の強度を上げるのがよさそうである。レストを減らすと必要以上に蓄積疲労が増して、次回以降のセッションに影響が出る可能性がある。あまり日常的に追い込みすぎると、継続的なトレーニングはしづらくなるものである。

 

 このサーキット、ルートクライマーなら、目標課題に似せた練習に使えそうである。たとえばすごくゆるやかな15手ののち、ちょっとツライ10手が来て、キツイ3手があり、ゆるやかな10手で終了、それで登り手のレッドポイントが1級なら、

 

7〜8手の5級課題×2

10手の2級課題×1

3手の1級課題×1(自分で似たものをつくる)

10手の3級課題×1

 

みたいな感じだろうか。これならボルダージムでもできると思う。

 

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 パワーエンデュランスといい持久力といい、流行っている営業ジムでは修業しづらいかもしれない。昔のルートジムには長モノ用の壁があって便利だったけど、それ専用に壁面積を使うのは、近頃では営業的にむずかしいのかもわからない。

 

 4×4やサーキットにしても、異なる壁面の課題を2つくらい選んでおいて、すいているほうの課題を使うとか、それなりに工夫が必要だろう。できるだけいろいろな種類の壁で登ったほうがトレーニングになるし、押さえるところだけ押さえて、あとはあまりガチガチに考えないほうがいいのかもしれない。

 与えられた条件を上手に使えるのが大人のいいところ、ということでおわりにしよう。アディオス!