Unfortunate Reality

 in climbing、それは指皮。

 

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 指皮の話で盛り上がれる人たちってクライマー以外にいるのだろうか。手先を使う職人さんとか? いや、そもそも無口な気がするし、母数もすくなそうである。野球の投手もものすごく気をつかうだろう。しかしクライミングとは事情が異なりそうである。

 

 各々の指皮問題は、汁手から乾燥手までのスペクトルと登りのスタイル、それに岩質との組み合わせから生じる。汁手でも指皮がすぐ削れたり、裂けたりする人はいるから、ほんとうに千差万別である。

 

 デッドを多用する人は必然的に持ち直しが多くなり、ホールドをたたくから、削れやすいといえば削れやすい。スタティックにいく人も、持ちかたの好みで特定の箇所が裂けることがある。

 

 カチを多用する乾燥手クライマーは、とくに指関節が柔らかい人の場合、逆反りした人差し指の第一関節付近が裂けて、とくに冬は悩みの種になることもあるようだ。ジムクライマーはランジなどでガバダコがいきなり剥がれることがありますね。

 

 サンドペーパーでタコを削ったり、皮膚の段差をならすのは常套手段のひとつだし、洗剤を含んだ水が指皮の回復によくないというのは内外問わずクライマーの一致した見解である。

 ダニエル・ウッズなんて昔はシャワーをするにも手袋をしていたそうだから。さすがにコンペ前のゲン担ぎみたいなものだそうで、普段はそこまでしないとインタビューで語っていたけれど、指皮の状態にものすごく気をつかっていることが伝わってくるエピソードではある。

 

 汁手の人は制汗剤を試すこともあるだろう。周囲に聞いた感じでは、効果があるかどうかは、やってみないとわからないという雰囲気である。

 サプリ好きのわれわれに好き品は何かないかしらべてみたら、メセナミンの入ったものがいい、と海外サイトに記載があった。日本だと成分名がどうなるのかまではわからなかったものの、乾燥させて、手汗がでないようにするもののようです。Antihydralという製品が出ているもよう。

 

 そのほか、塩化アルミニウムは強い制汗作用で知られているが、安全性は保障されていない。このような特殊な用途に使うことはまれで、継続使用による影響に関するデータがないものと思われる。

 身近なところではミョウバン水にも汗を抑える効果があったと記憶しているが、じぶんでつくるのは億劫である。

 

 もちろん指皮も適応はするから、岩を登りこんでいればそれなりになるものの、それ以上に打ちこむから結局大ダメージは避けられないという。だってラストムーブで落ちつづけて、もう登れそうで、次その岩にいつ来るかわからんとなったら、それはトライすると思う。

 

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 閑話休題。指皮ケアのガイドライン、クライミング袋に入りそうなものなどを以下にまとめてみた。

 

・手を洗って、汚れを落としてから登る。チョコレートつまんだあとの手でスローパーをたたかないこと。友だちをなくします。可能ならひとまず温水で洗って(そのほうが汚れが落ちる)、それから常温の水で仕上げる、くらいの気構えはあっていいだろう。河原の岩をトライしているなら、ひとまず川の水で洗おう。

 

・岩質と指皮の関係を考慮する。岩の質感と粒度、岩じたいのもつ水分量、それにもちろん気温、湿度。先に述べたとおり、特定のエリアで登りつづければ指皮もそこの岩質にある程度まで適応する。

 

 一般に、珪岩(熱変性したチャート)、チャート、それほどフリクションのない石灰岩、砂岩だったら指皮はそこまで硬くならず、反対にガビガビの岩(花崗岩とか凝灰岩とか)だったらけっこう硬くなる。

 スベスベの砂岩ならたんに登って適応を期待するのがよさそうで、ガビガビの花崗岩に対しては、より綿密な指皮戦略が必要になるものと思われる。

 

 ともあれ、相手がどんな岩質でもジムで登りこんでおくことである。なにもしないよりはクライミング用の指皮になる。あたりまえか。タコや固い部分ができたら登る前にサンドペーパーで削って、スムースでしなやかな状態にしておく。

 

・裂け目ができたら? そうだな、まず血を止めて、清潔にする。それからできれば傷口を湿潤にした上にテープ巻いて続行。裂け目が大きくなってきたら、もうあまりトライはできないと思ったほうがいい。いったん裂けたら治るにはけっこうかかる。アカギレとおなじようなものか。

 

・削れたら? 赤くなって滲出液とか出ちゃう感じの。こうなったら待つしかない。クライマーというのはこの「待つ」というのが苦手である。何かしていないと気がすまぬのだな。

 どうしても登りつづけたい場合は、イボルブのテープなどフリクションのあるテープを巻いて続行。くれぐれも指関節の具合に気を配ろう。指先にテープを巻くと感覚が変わって、いつもより持ってしまうことがある。

 

・皮がベロンとなったら? 血を止めて、皮でフタをして、つづけるかどうか考えよう。まちがってもホールドを血だらけにしないこと! ヌメるから!

 クライミング終了の合図と解釈したら、皮のフタをきれいに取って、清潔にして(しみるねえ)、抗菌の塗り薬かなにかつけて、バンドエイドをしておく。

 え、もうワントライしたくなったって? 上からテープぐるぐる巻きにしたまえ。もう知らん。

 

・指先テーピングは指の背中側から巻きはじめ、腹側の先端から重ねてX巻きして、さいごに水平に背中側でとめる。このへんは各自で試して、よい方法を見つけてください。動画も多数あるものと思われる。

 

・爪切りは必須。皮を切りとるのに剃刀の刃があるといいかも。エクストラクター(蜂に刺されたときなどに使う注射器状のもの)に付属していることもあるから、ついでに入れておくとよいかと思われる。

 

・アルコールとオキシドール。汚れ落としに使える。どちらも皮膚表面を刺激することにはなるので、とくに暖かい日には手があたたまる感じがして微妙かもしれない。一般にアルコールの方がオキシより強力である。

 話は飛ぶが、肌を引き締めるための化粧品の中には収斂作用のあるものが入っているから、汁手にも使えたりするのかもしれない。

 

・液体チョーク。アルコール+チョークだから、そう思って使おう。汚れ落としと、下地づくり。

 

 

 粉チョーク、液体チョーク、爪切り、エクストラクター、オキシドール、テープ、これくらいあれば、だいたいどこに行っても間に合うだろう。あ、あと岩を拭いたりするのにタオルはあったほうがいい。ついでにヘッドランプも欲しい。夜の山はトリ目にはキビシイから。

 

 

 最後に、どのタイプの手であっても、指皮をすみやかに回復させたければ、クライミングがおわったら湿潤に保つことである。ワセリンでぜんぜんかまわない。冬場はお休み手袋などを装備すればさらに望ましい。個人的には馬油がベタつかないのでオススメです。