すろうぱあ

 スローパーといっても形状は多様で、それぞれに適切な持ちかたとポジショニングがあるから、奥は深い。ファットピンチからラップ、コンプレッションにちかづくものもあって、上体の筋肉を多く使うし、持ちかたの工夫で掌や手首をこねくり回したりするから、いきおい肉の分厚い男性陣のほうが得意になるのかもしれない。

 

 スローパーが苦手な人は、引きつけることができないから、自然と下に入って腰を落とすことを選択しがちで、それでムーブの流れがとまって、上に向かうために反動を使いづらくなることがある。

 フットホールドが良いか十分な足力or足もとの技術があれば問題はないのだが、そうでない場合は、いったん落とした重い腰を苦手なスローパーで引き上げなくてはならなくなるので、かなり厳しい。このパターンをあまり何度もくりかえすと、スローパーに対する苦手意識が増大してしまう気がする。悪循環である。

 

 これがゴールホールドなら下に入ってOKなのだが、課題の途中に出てくるスローパーの場合、身体が落ちてしまう前に次のホールドに出てしまった方がいい局面もある。ホールドがわるい時はすばやく通り過ぎろ、というアレである。「いや、引けねえんだから持ててねえのよ、持てねえんだから動けるわけないじゃん」といいたくなるアレである。

 

 このあたりはいきなりむずかしいスローパー課題に挑むより、トラバースっぽい課題や、スローパー自体が核心になっておらず、かつ地上からちかい、そんなところから慣らしていくのも手かもわからない。苦手意識があると引けるものも引けなくなってしまうから。高さもないから取りつきやすいし。あるいは、手のとどく高さのスローパーにオープンハンドで肘を伸ばしきらないようにぶら下がって、脇の後ろを絞る、または肩を入れることを意識してみるのも良いかと思われる。

 

 スローパーを持って力を加えようとするとオートで肘が上がってしまうこともある。これに対しては、やはり脇の後ろを絞ることを意識して、それで肘まで内側に入ってしまうと真下よりは左右と手前に効いてしまうから、肘から先だけをすこし外旋するイメージで持つと、多少ちがってくる気がしている。

 

 引きつけるときに首と肩がくっついてくる場合は、離すように意識すると、それだけでだいぶ変わってくる。スローパーに限らず、つねに首が長く見える姿勢を保って動くこと、できるだけヘッドアップしないことは大事かと思われる。

 

 なお、当然ながらフリクションもかなり関与している。スローパーと掌のフリクションが少なかったら、それは持ちづらいよな。インカットしているホールドとは状況が違うと認識するべきだろう。

 

 乾燥手のひとは掌の水分量を高めたり、チョークの下地を工夫したりする余地がある。掌が肉厚な場合―グローブのような掌のひとっています―、いったん接触してから手前に皮膚をよじることでとめているような場合もある。ビーストメーカーのスローパーなどで試してみるとわかりやすいかもしれない。

 第三関節を曲げると持ちやすくなるものもある。スローパーに苦手意識がない人は、自然にいろいろな持ちかたを試すことになり、ますます得意になるという好循環もあるようだ。

 

 スローパー族とセッションするのも一法だろう。彼らがどのようにスローパーを処理しているのか、徹底的に観察するのである。そいつが友だちなら訊いてしまえばいい。自力で考えるのは美徳だが、埒があかないこともある。何より、登りのタイプのちがう人間とあそぶのはたのしいものである。

 

 話は逸れるが、フリクションがバリバリのデカホールドを抱え込むと前腕が物理的にダメージを負うことがある。ジャムだったら手にテーピングすればいいが、前腕に防御のためのテープを巻いているひとはあまり見かけない。サマにならないからだろうか。ホールドで擦った傷はなぜだか治りにくいように思うから、悩ましいっちゃ悩ましいよな。

 

 短パン上裸が動きやすさとしては最高なのだろうが、あれは防御力はメチャメチャ低い。冬の屋外にはキビシイ。マントルを返すときにボトムスにフリクションがあった方がメンタルの助けになるというのも無視できないポイント。

 これが嵩じると課題に応じて登る服装まで変わってきて、このボトムスとあのチョークがないと登れない、なんてことになりそうだけど、クライマーはそんなにヤワではない…筈だ。

 あとはあれだ、外だとホールドが出っ張っていないから、足首の内側を擦られるケースがあるかね。

 

 ちなみにフランス語でスローパーはプラ(le plat)というそうです。以上、連絡おわり。