グレネード

 もとい、グレードの話。しても仕方がないところはある。地域によってもバラつくし、そもそもひとがつけているものなのだ。

 

 限界グレードで考えたとき、関東のいまどきのジムだと、岩のグレード+−2付近に落着いている気がする。外だとより全局面的なたたかいになるから、打ち込むことで高グレードが登れることは普通にある。このあたりの考えかたは登り手のスタンス次第だと思う。フラッと来てその時の自分を試したい人もいれば、課題にほれ込む人もいるだろう。ここに優劣を持ち込もうとは思わない。

 

 

 開拓者や、コンスタントに成果を出しつづけなければならないプロクライマーにとって、グレーディングが悩みの種となるというのは容易に推察される。でも個人的にはグレードはあったほうがいいと感じる。限界をプッシュするだけでなく、自分が前進しているという感覚をより具体的な形で得たいから。

 

 ジョン・ギルが提唱したBグレードのように、区分は3つくらいあればそれでいいような気もしてきた。こういうのは「(課題名)を登った」という形で、クライマーの間で共通認識があれば、十分に前進度合いをはかる尺度として使える上に、課題同士のむずかしさを比較する必要がグンとすくなくなる。ジョン・ギルという人はすごいと思う。

 

 

 ただ、現在では課題数がものすごくふえているから、「〜を登った」といってもだれも知らず、したがって難易度のコンセンサスも得られないという事態が容易に生じるので、それだとちょっと具合がわるい。また、仮にジムでこのグレーディングを適用すると、怪我の危険がふえるかもしれないなあ。とくにはじめたばかりのひとは負荷の予測がつかないから、リスクは上がると思う。

 

 いや待て、むしろ難易度によるメンタルバリアが少なくなるから、かえってみんな強くなるかも。ノーリスクノーリターン、ということか。

 

 

 そう考えるとグレードの問題はほんとうに難むずかしくて、いまさらシステム変更するのは無理筋のように思えてくるから、定期的にリグレードしてメンテナンスするのが現実的な落としどころになるのだろう。

 

 

 リーマンクライマーとしては、グレードが甘い、辛いと思っても、気にしなければそれでいいから、ハッキリ言って気楽である。あるジムで1級がコンスタントに登れるのに、別のジムでは3級が登れない。よくあることだ。それぞれのジムのグレードで更新を目指せばいいだけだから、ガッカリする必要はぜんぜんない。近頃とみにそう思うようになった。

 

 とくに登りのタイプによっては苦手が強く出ることもあるから、コンスタントに登れるグレードを更新することと、得意系で限界グレードを押し上げることとを分けて考えて、どちらも注力するように試みた方が、結果的にストレスを減らせるし、なによりクライマーとしての技量が上がると思う。ホームジムのほうが登れるのは、それはそういうものである。

 

 

 とはいうものの、上記の考え方で済むのは、これは岩を目標にしているからであるな。インドア専門で精進しているひとにすれば、ジム間のグレード差は気になるにちがいない。やさしめ〜むずかしめでテープを色分けして、具体的に数値化しないようにしているところもあって、これは相互比較をしないことで軋轢を避けるというアイディアだが、インドア専門のひとにはそれではもの足りないだろう。

 

 

 岩と違ってジムの課題が残らないというのがおそらく根本的な原因で、これは根本的なだけに抜本的な解決がむずかしい。「ジムでも名作ができたら永久に残していいのではないか」という話をときおり聞くことがあるが、そういう意味合いなのかもしれない。営業ジムで実現するのはかなり厳しそうである。顧客の大半は新しい課題を求めるし、壁面積には限りがあるからだ。

 

 

 

 さいきん、ナーレ・フッカタイヴァルがV17を提唱した経緯を見ていて、上限を高くすればグレードにしわ寄せが来ないというのはあるかもなあ、と思った。これはジムグレードについても言えるかもしれない。都内のジムでは初段が最高グレードになっていることが多い気がしていて、ついで1級まで、2段まで、とつづいているように感じる。ちょっと統計をとってみないとアレだけど。3段まであるジムで、初段ちかくの課題にマイルドなものがあると感じられるのは、偶然ではない気がする。ジムグレードについてまですり合わせをする必要があるものか、どうか。個人的にはいまのままでかまわないと思うけど、ひとによってはそうはいかないのかもわからない。

 

 やはり岩はいい。岩を登ろう。