ものごとの上達に近道はない。いきなり三段が登れたり、5.14が登れたりはしない。そのような魔法のトレーニングは存在しない。
ふだん、われわれは世界中に生息するクライミングの鬼たちの成果ばかりを見聞きするから、そこに至るまでの気長で地道で膨大な努力の過程を忘れてしまいがちである。華々しい成果というのは見ていて爽快だものな。
このあたり、野球観戦に行って豪快なホームランを見たいというのとそれほど違いはない。
翻って、われわれはプレーヤーになるとどうしても「いらち」になりがちなのですな。長期的な視野に立つというのは、けっこうゲンナリするものである。
「千里の道も一歩から」なんて言われたら、面倒になってタクシーを呼んでしまうよね。成果はすぐに欲しい、そのための確立したトレーニングプランが欲しいと、なかなかにワガママなことを言っている。
まあ、これは取り組み方の差はあれ、常に前進しようと試みていて、それがなかなかうまくいかないから、グチをこぼしている側面もあるし、その気持ちはとてもよくわかる。私もいつも「登れねえ」とかなんとかブツクサ言っているクチである。
こうした心持ちはどうやら万国共通のようで、プロクライマーたちは、14クライマーになる為の効率的なトレーニング法について、日々どこかで質問を受けているみたいである。
これについて、アメリカのジョナサン・シーグリストが、やっぱり近道はないとしつつも、やみくもにトレーニングに走る前に次のようなシンプルな提案をしている。
・登りこむ
週に複数回は登るべし。クライミングほど前腕に特殊な負荷をかけるスポーツはないから、しばらく放っておくとどうしても弱くなってしまう。この辺は言わずもがなですね。
たいていのクライマーは弱くなるのが怖いのでレストできません。長期レスト明けのクライミングは本当にゲンナリするものな。
もちろん、1〜2週間の定期的なレストは重要だけれど、定期的な登りのサイクルを確立した上での話で、とくに始めて数年のうちは、下手にトレーニングに手を出すよりは、登りまくってベースラインを築き上げた方がいい。
・プッシュする
どのくらい押せばいいかって? できる限りだyo! 言わずもがなのゴールデンルール。上達したりゃ、プッシュしろ。いつも登れる課題ばかりトライしていても成長はない、そういうことかと思われる。
仮に数撃以内に完登できる課題しか触らなかったら、最高グレード更新は難しいだろう。オンサイトやフラッシュトライはいいことだが、目標に打ち込むことは上達のために不可欠。
・スタイルを変える
ちょっとしたプラトーに陥ったと感じたら、スタイルを変えてモチベーションを一新しよう。ボルダラーならリードを、スポートクライマーならトラッドを、トラッドクライマーならボルダーを、という風に。
スタイルごとに要求されるものが違うから、自ずとパワーが上がったり、スキルが上がったりすることでしょう、だって。
プラスチッククライマーなら、外に行くのがいいし、外ばかりの人はジムに行こう。ホームジムでできるものとできないものがはっきりしてしまって、やるものがなくなってきたら、出稽古をしよう。異なる傾斜の壁、異なる傾向の課題、未知のホールドに触れよう。
・いろいろな岩場に行こう
未知のエリアに行って、触ったことのない岩を登ろう。岩質が変われば要求されるフットワークも変わるし、岩の読み方やポジショニングも変わってくる。こうした経験は強さの面でも技術の面でもプラスになる。
・目標を見つけよう
進歩をはかる最良の手立ては目標課題にトライすることである。宿題に打ち込む中でわれわれの強さも弱点もともに浮き彫りになってくる。自分の苦手分野の目標課題があれば言うことはない。
トライにあたっては、忍耐力が鍵となる。一登目で全ムーブがバラせるなどと期待しないこと。そして全力でトライしている限り、自分が完登に向けて前進していると、心に刻むことである、とのことです。
・それでも行き詰まったら
よく言われるとおり「クライミングのための最高のトレーニングはクライミングそのもの」であり、クライミングはそれ自体最高にたのしいが、それだけでは限界がある。5年以上続けていて、ここ1年以上進歩を感じられないようなら、より体系的なトレーニングに取り組む潮時かもしれない。