ローボールヒッター

 フリーソロについて。ボルダラーからすると「ハイボールを延長していったらフリーソロに近づくかなあ」というくらいのイメージしかなかった。

 

 でも、そうだよな、ノーロープで激しい登山を行ったらそれはフリーソロだよな。厳しい沢登りをノーロープで行ったらフリーソロだよな。落ちたらアウトな領域で動きつづけたらそれはフリーソロだよな。そしてそれらは世間一般の感覚からしたら、異端扱いされるよな。

 

 いずれも登攀能力は不可欠だ。というかたぶん、多寡はあってもすべてが要求される。それを踏まえて上記の何が違うかといったら、まあそりゃ内容だわな。

 

 集中といってもいろいろなんだと思う。ハイボルダーはどんなに長くてもせいぜい数分だ。というか一分半もあれば十分にその領域まで行けてしまう。難しい登山や沢登りにおいてはその持続時間はもっと長い。これは集中と一括りにするよりは、もっと別のことばをあてたほうがしっくりする気がする。たとえば制御とか。

 

 人間が高い集中力を継続していられる時間はせいぜい20分程度だと、どこかで読んだことがある。いっぽう、読書やゲームなどだと気がついたら日が暮れていることもあるから、これは何をしているかに依存すると思われ、心技体ともに高度な要求がなされる場合、そう何時間も保てるとは思えない。

 

 F1ドライバーなんかはどうだろう。超人といわれるあの人たちはレース中にどのくらいの時間運転しているのだろう。

 いまレギュレーションをしらべてみたところ、305kmを超える最小周回数、または規定周回数に達していなくても、2時間経過した時点の周がファイナルラップとなる、とのことだった。

 

 厳しいムーブの入る短いルートのフリーソロと、ムーブ的にはそれほどでもないが長時間、それもムーブ以外の難しさを伴うフリーソロと、どっちがどうというわけでなく、ただその性質はずいぶん違ってくるのだろう。

 

 難しさもいろいろだ。自分でどうにかなるものと、ならないものとある。雪崩、落石、これらは厳密には予測できないし、くらったら即終了なことは普通にあるよな。いっぽうで何度もリハーサルをすればムーブの成功率は上がるだろうし、登攀能力をはじめとした己の心技体は高めていくことができるし、トライする天候や体調はいいときを選べる場合もあるし、いろいろだ。

 ハイボルダーの延長のような場合、何度もリハーサルをして、天候も体調もいちばん適した時をえらんで、それでもギリギリになる。ムーブの難しさだと思う。 

 

 さておき、見方を変えると、ボルダーの場合、ムーブを成功させるためにほかのことを考える余裕がなくなるから、半強制的に集中するのではないかと自分では思っている。だらんとした状態では厳しいムーブはこなせないし、他のことに気をとられていてはムーブは失敗してしまうから、割合に集中した状態に入りやすいのではなかろうか。

 しかも失敗しても何度もコンテニューできるから、とくにボルダーやスポートクライミングは、気に入ったひとが即座にhookedというか、のめり込むことがあるのだと思う。私もそのクチである。

 

 これがハイボール〜フリーソロになれば話は変わってくる。アホみたいな話だが、難しいボルダーがいまどきのファミコンミニ(中断、その場から何度もコンティニュー可能)だとしたら、厳しいハイボールは初代ファミコンゲームのように感じるときがある。

 

 それはたとえば『高橋名人の大冒険島』や『魔界村』だろう。攻略じたいがめちゃくちゃに難しい上、ゲームオーバーになったら最初からやり直し。

 

 ひょっとするとある種のレトロゲームは冒険的なのかもしれない(オイオイ本当かよ)。理不尽ゲー、無理ゲーなどというけれど、この不可能に挑もうとする心性は、ほかならぬ冒険心なんではないかなあ。

 おまけにそれがいわゆる生産的な行為でない点も似ている気がするのだが。ボルダラーでゲーマーな奴はけっこういるような・・・気のせいだろうか。

 

 ハイボールがフリーソロの領域に達したら? すくなくともそれはもうゲームではなくなる。その境界はグラデーションであり、時に応じてわれわれが自身で線を引く、そういうことになるかと思う。