チョーク(2)

 「チョークなんて要するに炭酸マグネシウムの粉だろう」とあなどってはいけない。チョークひとつで核心の一手が止まるようになる、こともある。いやホント。

 

 そもそも炭酸マグネシウムがどうして滑り止めに使われるのか、あれは汗を吸うからだよな。ほかのものではどうなのか、試したことはないものの、他種目でもひろく使われているところを見ると、もろもろ総合的に考慮して炭マグが最適だという結論に至っているのだろう。

 体操、重量挙げ、野球のピッチャーのロジンバッグなどが思い浮かぶ。ちなみにロジンは松脂の意だそうである。ついでに調べてみたところ、ロジンバッグの成分は炭マグ80%、松脂15%、石油樹脂5%といった感じであるらしい。

 

 炭マグじたいは化学物質だから、純度で測るのだろうと思い、なんとなく炭マグ100%は普通に可能だろうと思い、ちがいがあるとすれば炭マグに含まれる不純物というよりは添加物の性質によるのでは(原料となる炭マグに不純物が残っていたら品質のコントロールがむずかしくなる筈だ、どうやらそれぞれ自社で精製しているわけでもなさそうだし)、そう思って調べてみたものの、そういうわけでもないみたい。というか、あまり細かいところまではわからなかった。

 

 ひとまず、マグネシウムの製法には熱還元法と電解法のふたつがあって、前者はドロマイトあるいは菱苦土鉱(マグネサイト、実際苦みがあるらしい)と呼ばれる鉱物から作り、後者は海水から作る。海水からであれば成分は世界中どこでも同じだから安定しそうなものだけど、鉱物となると精製の過程で仕上がりは変わりそうである。純マグネシウムを取り出す過程で炭酸マグネシウムができる、という理解でいいのだろうか。このへんは疎すぎてぜんぜんわからない。

 

 ちなみに炭マグに熱を加えると酸化マグネシウムになるそうです。フリクションがどう変わるかは不明。

 フライパンで煎るか、電子レンジにでもかけてみようか。少なくともカラッカラにはできそうである。汁手の人には良かったりするのか、どうか。気が向いたらためしてみよう。

 

 さておき、どうやら炭マグ自体が純度100%でない上に、種々の添加物を混ぜたりするから―品質安定とフリクション向上のためと思われる―、そうなるとメーカーによって使用感にけっこうな差が出るのも肯ける。フリクションラボなんかは純度が高いのを売りにしていた気がするが、そもそも純度が高ければ即フリクションが上がるのかどうかは不明である。

 よくよく考えたら手汗を吸って滑りが止まってくれればそれで十分といえば十分な気もしてくる。岩に影響を与えない範囲でチョークに工夫を凝らしてフリクション向上を目指すかどうかは、各自の選択にゆだねられている。

 

 もうひとつ、汁手の人間からは信じがたいことだが、体操選手は炭マグをなじませるために手にハチミツや砂糖水や塩水やただの水をつけるそうである。体操の場合、鉄棒だったり、接地面だけ木になっていたりするらしいので、対象と掌の状態によって最適解は変わってくるのだろう。

 

 われわれの場合、相手は岩で、岩質によっても水分含有量はちがってくる。もっというと前後の天候、その日の時間帯によって変わる筈はずだ。こちらの掌の状態をそれに合わせていくというのが、基本的な考えかたになるものと思われる。

 

 何せ重要なのは水分量だろう。このあたり実験してみたいところだが、そもそも掌の水分量って測れるのだろうか。謎である。

 

 チョークにしてもあけてからの保存条件によって湿気たり乾いたりする。さいきん、海苔だったか乾物を買ったときについてきた乾燥剤をチョークバッグにほうりこんでみたら、ほんとうにサラサラになった。変わるものである。細かい調査はメーカーに任せるとしても、大まかな傾向だけでも把握できるといいのだが。

 

 そうそう、岩自体のフリクションのことを忘れていた。基本的に河原の岩は磨かれていてフリクションにとぼしく、山中の花崗岩でもガビガビ具合にはけっこうな差がある。チャートに関しては夏でも花崗岩ほど激変しない気がしている。何というか刺さる感じがする。むろんスローパーなどはあまりスベスベになるとどうにもならないが、エッジなら花崗岩よりはマシなような。

 

 まとめると、岩のフリクションと、気象条件による水分量と、自分の掌の状態と、それからチョーク、これら4要素を加味する必要があるということか。こりゃもう、匙とか投げちゃう感じだな。

 以上、報告おわり!