熱量

 アダム・オンドラが『Just Do It』(5.14c)をオンサイトした動画に彼自身のコメンタリが入っていて興味深かったのでメモ。

 

 当日は風が強く寒く、オンサイトには適していない状況だったそうな。ローカルから「今日じゃない方がいいかも」とそれとなく示唆され、実際その通りだとは思ったものの、ルートを前にして気持ちを抑えられず、登ることにしたのだとか。「思わず取りついちゃう」という、クライミングを始めたばかりのようなアツさである。

 

 それだけでなく、彼のインタビューを聞いていると、ルートの歴史や先人の努力に非常な敬意を払っている印象を強く受ける。というかトップクライマーってだいたいそんな感じだなあ。同じくらいの強さの奴は互いのことがよくわかる、というアレか。ましててっぺん付近にいる人間は本当にひと握りだから、そうした修羅が視る(あるいはかつて視た)世界を共有する機会は、彼らにとって本当に得難いものなのだろう。

 

 同じレベルの奴がいないって、ある意味とっても大変なことだ。『はじめの一歩』でいう鷹村VSブライアン・ホーク戦みたいなものか。逆に言うと、一歩VS千堂戦(二回目)のように、切磋琢磨できる相手が身近にいるのは幸せである。

 

 岩の場合、相手がいなくても課題という形で残されているから、われわれはそれぞれ実際に対峙することができる。このあたり、演奏家が名曲の譜面に取り組み、乗り越えようと試みるのと、さほど違うとは思わない。

 

 さ、今日も登りに行こう。