キャンパシングは魅惑的なトレーニングのひとつである。なんだか強そうだし、見ているだけでテンションが上がる。
一本指キャンパとか、ものすごい落差のリバースダブルダイノとか、トレーニングというよりもはや一発芸である。こういうのはモチベーションを上げるためだけに使って、登ることで上達していくのがまっとうではあるのだが、やってはみたい。やってみよう。
キャンパシングは予想されるとおり怪我の温床でもある。英国のデイブ・マクレオーなどは、著書のなかで「キャンパはラダーだけにしたほうがいい」といっているくらいだから、よほど注意しないといけないのだろう。
ひとまずマッチラダーからはじめて、ダウンキャンパはひとまず避け、慣れてきたらおいおいメニューを考える、そのくらいが現実的な落としどころになりそうである。
以下、キャンパシングを行っていいかどうかの目安。
どこにも怪我をしていない
16歳以上(指の骨が成長しきっている)
クライミング歴2年以上
初/二段か5.12+/5.13をコンスタントに登れる(アウトドアで)
国内外でほぼ同様の基準が採られている。このルールは守ったほうがよさそうである。
・頻度と量
とりあえず週1、2回。セッションの間は48〜72時間あける。これは神経系トレーニングの共通ルールである。
ものすごい上級者になったら3、4回してもいいかもしれないが、肝心のクライミングがおろそかになっては本末転倒である。
つづいて量だが、これがむずかしい。ひとまず、疲れるまで行ってはいけない。これも神経系トレーニングの共通ルール。もうひとつ、出力が落ちたらやめ時であるというのも共通ルールだと思う。
とはいえ、これだけではいささか心もとない。プライオメトリクストレーニングの量の目安を調べてみたところ、ウェブ上に
初級 80-100
中級 100-120
上級 120-140
という記述があった。これはボックスジャンプに関するもので、数字は回数である。これを手におきかえると1手で1回(ゴールマッチも含む)、ダブルも1回、になる、のかな。
俗に脚の力は手の3倍というから、この1/3〜半分くらいからトライしてみてはどうだろうか。目安とまではいかずとも、気休めくらいにはなると思う。
するとなんとなく50くらいを目安に、やりながら調整していく感じだろうか。たとえば1-2-3のラダーなら、1にマッチしてスタート、2へ左手で1手め(1回)、3へ右手で2手め(2回)、3手めを左手で3にマッチ(3回)、と数える。これを左右対称(これもキャンパシングの重要な原則)に行う。
セット間の休憩は例によって3〜5分程度とる。とにかく疲れを感じなくなるまで休む必要がある。
レストは、一般に長すぎるということはない。30分も休むことはしないと思うが―またアップしなくちゃならなくなる―べつに10分休んだっていい。5分以上のレストはトレーニングの質を上げ、怪我のリスクを下げることはあっても、逆はない。Less is moreである。
・メニュー
マッチラダー
おそらく基本中の基本。いちばん下のラングにマッチして、次のラングに右手を出し、マッチして、また次のラングに右手を出し、マッチして、くりかてす。左手出しからも同様に行う。
ラダー
基本。いちばん下のラングにマッチして、次のラングに右手を出し、その次のラングに左手を出し、くりかえして、いちばん上のラングをマッチして終了。左手出しからも同様に行う。
ラダー(難しめ)
パワー・スローの準備段階と捉えればいいか。しかし動きをとめずに行えば場合によってはパワースローよりもむずかしいかも。1-3-5-7-9を左右スタートで。
パワー・スロー
両手マッチから、片手をできるだけ遠くに出す。そこから下の手をできるだけ遠くに出す。マッチして終了。たとえば、1-3-4、1-4-6など。または間隔を変えて、1-2-4、1-2-5など。
引き手のプッシュパートを覚えるのに好適。マッチしてスタート、片手をどんどん遠くへ伸ばしていく。最初は対角の足を使っていい。左手出しの時は、左手の下のフットホールドを左足でとらえる。若干身体を右に向けるとよい。右手出しの時は左に向ける。体幹と身体張力を意識することが大事。
ほかにエックス、タッチーズ、ダブル、リバースダブルなどあるが、V10を登ってから考えても遅くはないだろう。
とっかかりとしては、マッチラダーとラダーからはじめて、かんたんに感じられるようになったら、難度を上げていくのが無難かと思われる。マッチラダーとラダーを2セットと、ハードなラダーとパワースローを2セットという風に。
これに飽きてきたら、高強度のボルダートレを混ぜていく。4、5手くらいのハードなデッドムーブを設定して、数分おきに5トライ、おわったらまた同様のコンセプトで別の課題をつくってくりかえす。といっても全体で30分以内におさまるようにする。疲れるほど行う必要はない。
というか、一般に、パワートレーニングというものは、もの足りないくらいでちょうどいい。以上、連絡おわり。