シューキーパー

 クライミングシューズのサイジングはむずかしい。世の中のむずかしいことランキングがあったらそこそこ上位に入るんじゃないかと思うくらいむずかしい。

 

 キツすぎるシューズを買ってしまったら、迷わずシューキーパーを買おう。1,000円のでかまわない、前後と左右に広げられればなんでもいい。ひとまず履けるようになります。

 こんなものを使うのはよくないのではないかと思ってずっと敬遠していたのだが、ためしてみたら正解だった。すこしずつ伸ばして、さいごに自分の足で微調整するのはぜんぜんむずかしくない。

 

 ちなみに、ビニールをつけて履きつづけても、汗を吸わないので伸びにくい。リンスに浸けても効果はうすい。このあたりはアッパーの素材にもよるが、劇的に伸びたりはしない。アッパーがシンセであればほぼ伸びないし、スエードなら伸びる。紐、ベルクロ、スリッパだとスリッパがいちばん伸びる。何せサイジングは実際に履いているひとに聞くのが吉である。

 

 ウェブ上にファイブテンやスポルティバのサイズ表が載っているが、彼我の足型のちがいのせいか、けっこうズレがあると感じる。エッジアンドソファのサイズ表―いまもあるのか知らん―が、われわれにとって身近でためになるであろう。

 

 個人的には、よほどの理由がないかぎり、ビニールをつけないと履けないような靴は小さすぎると思う。とりあえず履いて足先に力をこめることができてナンボである。

 

 ちなみに、伸びるといっても靴底が伸びるわけではなく(これは不可能事です)、アッパーが伸びて変形するだけである。したがって、あまりにも小さいサイズを買って、無理に伸ばして履いたとしても、指先のポイントと靴本来のポイントがズレて、ポテンシャルを十分に活かしきれないおそれがある。

 逆にあまりにも大きいサイズを履くとダウントーの恩恵は受けられない。エッジと足先の間にはどこまで行っても距離があるわけだが、ポケットやちょっとしたクラックにつま先をねじ込むことを考えると、個人的にはエッジはあったほうがいいと思っている。このへんは好みの問題だろう。

 

 

 もろもろ加味すると、買うときのポイントは、すくなくとも履くことができて(当たり前だ)、つま先に力を入れることができ、どこも極端に痛いところがなく、足先のポイントが合っていると感じられる、これが最低条件だろう。反対に、靴の中でつま先が余裕で動いてしまうようなら大きいし、どこかに隙間が感じられる場合も避けたほうがいい。

 

 とくに踵が浮いていると、ヒールをかける時の感覚がかなり変わるので、注意が必要である。ファイブテンのある種のヒールのように潰してかけるものもあるが、基本的にはフィットするものをさがすのが望ましい。

 

 案外、ウーマンの方が踵が小さくて都合がいい場合もある。ローボリュームと聞くと、幅広甲高の男性にとってはそもそも選択肢からはずれてしまいがちだが、サイズを合わせれば存外合う可能性がある。欧米のサイズ感を考えれば、東洋人男性にウーマンがフィットしても不思議ではない。つま先を合わせると踵がゴツくなってヒールの感覚が甘くなることはあって、そんなときにウーマンをためしてみるとピッタリくることもある。

 

 総じて、すべてを兼ね備えた一足というのは、オーダーしないかぎり、かなり厳しいと思ったほうがいい。そのぶん夢と希望を託せると思って靴を選ぼう。パートタイムクライマーとしては、2、3足を使い分けるのが現実的ではないだろうか。エッジングとスメアは両立しないし、ダウントーとトーフックも両立しづらいし、スリッパはどうしてもヒールに難がある。

 

 昨今のシーンを反映して、柔らかめ一本ベルクロがインドアのひとつのスタンダードになりつつある感じはするものの、ある程度の硬さが欲しい局面はどうしても出てくる。ジムだとトーフックをわりと使うし、ハリボテを走ることもある。すくなくとも「履けるかぎり小さい靴を選ぶ」というのは昔の話だと思ってよさそうである。

 

 購入してはじめてジムで履いて、すくなくとも10分くらいは課題をトライできる、それくらいの感覚を目安にしてはどうだろうか。大きすぎる靴を買ってしまうことを恐れる必要はない。ボルダラーならインドアリード用のトレーニング靴にするとか、使い道はいろいろある。足指でホールドを掴む練習にも使えるだろう。

 

 さいきん、いよいよシューズの種類がふえてきて、国産ブランドもできて、シューズ選びはますます悩ましくなっている。心おきなく悩むとしよう。