プラトー、そして過ごし方

 別名、伸び悩み。頭打ち。スランプ。停滞。クライミングにかぎらず、ものごとに継続的に取り組んでいると必ずといっていいほど遭遇するのがこれである。「こんなに登りこんでいるのに、どうしてグレードが上がらないのだ」と嘆くクライマーは少なくないと思う。私もそのクチです。

 

 上達するにはむずかしい課題を触ることだが、クライミングは登れてナンボなところもあって、あまりにも長く完登から遠ざかってしまうのは、メンタル的によろしくない。宿題のバラしに打ち込むのはいいことだが、完登もしよう。一日一登、ということで。

 

 さて、どのくらいむずかしい課題を触るかという問題は、岩場やジムでのすごしかたと関わってくる。岩場だと、そもそも目標課題があいまいだったり、岩をさがすだけで日が暮れたり、それでなんとなくハイキングみたいになって満足して、それで充実したりするので、ジムの場合に絞って考えてみよう。

 

 ひとまずウォームアップである。面倒だけど、した方がいい。「クライミングはスポーツではない、ライフスタイルだ」などとうそぶいて、お茶など飲みつつジムに来て、すぐさまわるいホールドにダブルダイノをかますなどというのは、スタイルとしては潔くて好もしいが、危ないやね。

 われわれパートタイムクライマーは武道家ではないので、常在戦場をこころがけなくてもよろしい。ちまちまアップしよう。

 

 アップの目的は、思いどおりに身体を操れるようになることである。それがどういう状態か、具体的なイメージが湧かない向きは、ラジオ体操でもバーピーでもその場ジャンプでも何でもいい、とにかく心拍数を上げて循環をよくしよう。アップがきらわれるいちばんの理由がこれで、最初に心拍を上げるのがツライのだよな。いったんあたたまるとなんでもなくなるのだけれど。

 

 まあ、運動モードへの切り替えというか、身体に対して「これからこのくらいの強度のこういう動きをするよ」と申し渡すのがウォームアップの本旨である。場所と時間と気持ちに余裕があれば、古き良きARCトレーニングなど引っぱり出すのもいいだろう。

 

 ウォームアップの順序は大きいところから小さいところ、身体が冷えているのにいきなり指のストレッチをしても効果はうすい。ちなみに運動前に静的ストレッチをすると筋力が下がるという統計があるが、個人的には、何もしないでイキナリ登るよりは、静的ストレッチでもなんでもしたほうがいいと思う。

 オススメは動的ストレッチ。そのへんの部活で若者がやっているものでかまわない。「そんなんよう知らんし面倒」という人は、ひとまず息があがるまでその場ジャンプ→体中の関節をくるくる小さく回す→イチローネクストバッターズサークルでやってる股関節ストレッチ→チキンウィングストレッチ(肩甲骨)くらいは頑張ろう。あとは大きなホールドにぶら下がって、かるく懸垂しておく。

 

 疲れる前に宿題を倒したい気持ちはわかるが、戦闘態勢にならないと敵は倒せません。ボスが強ければなおさらである。指のストレッチについては、情報は膨大にあるから、適当に見繕って取り入れるべし。

 

 壁のなかでのウォームアップについては、間違っても落ちる可能性のある課題に取りつかないこと! それはアップの域を超えています。

 簡単な課題をいろいろなムーブで登ったり、スタティックに行ったりダイナミックに動いたり、ヒールやトーの感覚を確かめたり、ハイステップを入れたりする。ホールドもカチからスローパーからピンチからアンダーまでひととおり触る。ランジ系の動きも入れる、これから行う動きをたしかめるような意識を持つのがよさそうである。

 

 それで、アップがおわった段階で、その日の調子がなんとなくわかって、どのくらいヤバイ課題を触るかもきまってくる。もちろん、はじめの感覚がイマイチでも、途中から乗ってくることもあるから、例によって目安である。

 

 あれ、プラトーのところまで行かなかったな。また次回。(この項了、次回に続く)