フィンガーボード(2)

・フィンガーボードの利点、意義

利点:なんとなく怪我をしそうなイメージがあるが、じつは安全。実際のクライミングの場合、不安定な体勢からダイナミックにホールドにアプローチせざるをえないことはよくあり、結果として不十分なホールディングで耐えることになりがちだ。そうやって指が適応していく面もあるものの、危ないやね。

 

 キャンパシングは、クライミングに比べれば動きはきまっているが、やはり指に対して瞬間的に負荷がかかる―それが狙いなのだけど―から、どうしてもリスクのコントロールがしにくい。フィンガーボードが危ないというのは、やりすぎたら危ないという話で、それだったらクライミングだってキャンパだって同様のリスクがある。そのへんのコントロールができる、故障したくない大人クライマーにとって、フィンガーボードは好適であるといえる。

 

意義:上体、とくに指と前腕を、実際の動きに近い形で向上させることができる。トレーニングの原則でいう特異性をある程度まで満たす。ある程度というのは、実際のクライミングでは、いわゆる両手をおなじ高さに揃えた形のポジションになることは少ないといえば少ないから。

 

 アダム・オンドラはそもそもフィンガーボードをほとんどしないが、する際にはより実践的な効果を狙って片手ハングのみを行っている、とインタビューで語っていたことがあった。まあ、彼の場合、両手だと大抵のホールドが持ててしまうということなのかもしれないが。

 いずれにせよ、これからフィンガーボードを買おうというわれわれパートタイムクライマーは、ひとまず聞き流しておけばいいだろう。

 

 

・どのボードを買う?

 なやましく、また、たのしいパートである。巷には様々な種類のボードが溢れているので、とくに取り組みたいホールドが含まれているものを選べば基本的にはOK。カチならムーンのファットボーイ、ポケット、オープンならビーストメーカーあたりが有名か。木製のボードは指皮にやさしく、クライミングの邪魔にならないのが利点。メトリウスのフィンガーボードも定番である。

 自分にとって難しすぎず、簡単すぎないものを選ぶこと、これが難しい。思わずいくつも買ったりして。

 

 

・設置の仕方

 方法はいろいろある。持ち家であれば壁に直接固定すればおわりだが、賃貸だとそうはいかない。壁の桟にのっけて、つっかい棒で両側からはさむやり方は、桟が重量に耐えられるかが核心か。ヘビークライマーとしてはすこしばかり不安になりますね。ロックリングスのように紐を通してぶら下げる方法もある。公園の鉄棒などが考えられるけど、ちょっと勇気がいるし、公園まで行くのが億劫だなあ。できれば自宅で完結したいところである。

 

 2×4の角材を買えば自分でボード設置用の台をつくることもできる。費用はせいぜい数千円で、素人でも問題なく作れる。ドリルがあればなお早い。

 

 

・なにを求めるか(トレーニングプラン)

 最大筋力か、比較的高強度で動きつづける能力(パワーエンデュランス)か、低負荷での持久力か。これは陸上でいえばスプリント、インターバル、長距離走のような関係だと思えばいいのかな。

 

 パワーエンデュランスのトレーニングはいわゆる「リピーター」で、ぶら下がっては休み、ぶら下がっては休みをくりかえして1セットとし、セット間を2〜3分休むというもの。ものによってはそのまま懸垂したり、脚前挙を入れたりするものもある。メトリウスのメニューなんかそうですね。これはどちらかというと全体的なフィジカルの底上げを狙ったもので、まずここからはじめてみるのもいいかと思う。

 

 最大筋力に焦点をあてる場合、ひとまずわるいホールドを使うか、重りを負うかして、1回に10秒以上ぶら下がれないようにし、ワントライごとに3〜5分くらい休む。低負荷での持久力は、純粋にぶら下がる秒数を伸ばすことで得られるだろう。最大筋力を上げれば、付加的に持久力も増すので、どちらかというとそちらに注力したほうがよさそうである。

 

 リピーターの場合、ハングの秒数と次のハングまでのレスト秒数をきめる必要がある。ちなみにビーストメーカーのトレーニングアプリ、アンダーソン兄弟のトレーニングマニュアルだと7秒ハング、3秒レスト。これは結構せわしなくて、安定した体勢でぶら下がれないと怪我のリスクが増してしまうから、実際にやりながら、自分なりに調整した方がいい。

 

 リードクライミングでは、クリップやレストのために、ホールドを保持した状態でその場にとどまることが必須となるので、リピーターは特異性の原則にかなっているといえる。ボルダーの場合はもっと動きつづける感じになるし、ガツンと悪い一手を止めたいから、より最大筋力にフォーカスしたほうがいいだろう。リピーターを行うにしても、6秒4秒くらいにして負荷を上げた方が、より実践的かと思われる。

 

 もっというと、ボードのなかのやさしいホールドと厳しいホールドを、ぶら下がったまま十数手分くらい行き来して1セットとすれば、さらに適応的になる筈だが、そうしたトレーニング法はあまり見当たらない。純粋な指力の向上を狙うトレーニングプランが多いみたいである。

 

 さしあたっては、筋肥大させてから神経を通すという一般的な筋トレの順序に則って、リピーターからはじめ、一定期間継続したのちに、最大筋力に移行するのが穏当だろう。単純な話、いきなり高強度のトレーニングに入るよりは怪我のリスクも減る筈だ。

 

 というか、そもそも前腕の筋肉はそれほど肥大しないし、リピーターでも神経適応は起こる。これは最初の6週間程度でけっこう伸びるといわれているが、筆者は裏づけをとったわけでないので、伸び率は各自で記録して、ひと段落したら違う方面に向かう、というのが良いかと思う。腱や関節まわりの構造的な変化については、時間をかけて起こるものと考えたほうがいい。こつこつと進めていこう。

 

 総じて、フィンガーボードに何を求めるかは、目標とする課題の性質によってきめることが肝要である。

 

 

・頻度とタイミング

 気になる頻度だが、これは神経系のトレーニングと同様に考えればよいと思う。定期的に登りこんでいるクライマーなら週2日、セッションの間は回復のために48〜72時間あける。身体が疲れるようなトレーニングではないと念頭に置いておく。持久力トレーニングをする場合を除いて、疲れるまでは行わない。出力が落ちたらそこが切り上げ時である。

 

 次に、どのタイミングで行うかだが、神経系のトレーニングだから、アップがおわったらすぐに行うのがいい。ただしボルダラーの場合は、フィンガーボードのための日を設けるか、登る日に行うならボルダーがおわった後、補強トレーニングの前にする。一日のおわりに疲れた状態で行うのはNG。疲れを感じだす前にぶら下がるのが望ましい。

 

 週4回くらい登っていると、指のレストが足りなくなる気がするが、1回のクライミングの強度にもよるから、やりながら慎重に調整する必要がある。週の後半のセッション時に、前回よりも力が出なくて、さしたる理由も思いつかないようなら、休むことを強く勧める。また、週に一度はオールレストの日を設けること。

 

 とにかく気長に、自分育成ゲームだと思って取り組む。セット数は、これも筋トレのルールに則って、ひとまず最低2セット。強度を下げればセット数は増える。逆もまた然り。トレーニングの漸進性の原則に従って、負荷は徐々に上げていく。

 

 

・トレーニングサイクル

 調べたところ、これもいろいろな方法があるもよう。記録―そうそう、この手のトレーニングは記録してナンボだ―をつけて、伸びが頭打ちになるか、最大で6週間経ったら、数日から1週間のレストをおいて、次の種類のトレーニングに移る、これがいちばんシンプルに思える。導入時や長期レスト空けは緩やかにはじめるようにし、すこしでも違和感が生じたら中断すること。ビビりながら行うくらいでいい。

 

 その点では、8週間を2つに割って、間に1〜2週間のレストを挟んで徐々に強度を上げていく方法が、安全かつ上記の漸進性の原則にもかなっていて良さそうに見える。強度はひとまずセット数で調整すればいい。週2回として、2-2、2-3、3-3、3-3、レスト1~2週間、3-3、3-3、3-4、4-4とか、そんな感じだろうか。

 

 ・・・思ったより長くなってしまった。内容は随時更新していこう。

 

 フィンガーボードと並ぶトレーニングの雄、キャンパシングについては、ウェブ上のロストアローの取扱説明書に素敵にまとめられている。メニューやレスト時間については、あとでまた調べよう。

 以上、連絡おわり。