減量、ダイエット(1)

 ひとくちに減量といっても、目指すところは様々だし、そもそも痩せる必要があるか、というところから考えるべきだろう。単純に目方を落としてグレードが上がることもあれば、逆に増量してグレードが上がることもある。

 

 このあたりは、筋肉のトレードオフの問題もあるし、どこをどのくらいバルクアップするかにもよるだろう。

 あるいは、神経系のトレーニングを行って筋動員率を高めれば、筋肉ひいては体重をあまり増やさずにパワーを上げることも可能だから、それだけでグレードを更新できることもあるし、それですむならひとまず減量は要らなくなる。

 

 もっといえば、体重はそのままでも、フットワークをみがくなり体幹を充実させるなり、身体の使い方を見直してムーブを洗練させるなりして、それで目標課題が登れる可能性は、われわれにはアマチュアにはいつでも十二分にのこされている。

 

 にもかかわらず、われらクライマーは目方を減らすことを考えがちで、なぜかというとスキルの話は定量化しにくいからだ。体重はすぐ数値化できるから。具体的な目標のほうが取り組みやすいという事実はわりに強力である。

 

 とくにクライミングについては、その性質からして軽いほうが良さそうだというのはだれしも思うところで、2キロで1グレードということばもあるくらいだ。「脂肪は要らない、軽いほど良い」とする向きもあったようで、実際、80年代はこの傾向がもっとも強かったようである。

 

 現在はトレーニング方法がずいぶん確立されてきて、また極端な減量が必ずしも成果に結びつかないこともわかってきて、だいぶ変わってはいるものの、減量に対する夢と希望は、依然としてアマチュアクライマーの心に根づいている気がする。

 

 実際にクライミングを経験してみればわかると思うが、この感覚は大多数の人にとって直覚的かつ根源的なもので、取り除くことはできないし、なかば真実だから余計にタチがわるい。

 

 だいたい、継続的に登りこんでいるクライマーはそれなりに絞れているのである。したがって、巷のダイエットが対象とする人からすればゴールといってもいいような地点がスタートになることがままある。おまけにハードなムーブを実行し続けるための筋力を保ちながらという限定つきなのだから、クライマーの減量は、これは、相当むずかしいといっていいんじゃないかと思う。

 

 見方をかえれば、減量がひときわむずかしくて実現できないから「もし痩せることができたらもっと登れるのではないか」と、さらなる期待をかけてしまうわけで、伸びが頭打ちになっているクライマーならなおさらである。

 

 悪循環といえば悪循環なのかもしれないが、一生懸命登っている人間なら、だれだって少なからずプラトーを経験していると思うから、こうした心性を「アカン」といって切り捨てるのは、筆者にはできかねる。

 

 ひとまずいえそうなのは、減量すべきかどうかは、そのひとの現状の体型の評価、体質、登りのスタイル、これまでの食習慣、目標課題といった、さまざまな要素を吟味して、総合的に決めるべきことがらである、ということくらいである。

 

 とはいえ、ここで終わってはただの一般論で、何も言っていないのと殆ど変わらなくなっちまう。それではあまりにも甲斐がないから、もう少し考えてみよう、というのがこのエントリの趣旨です。増量については、筋トレをするか、食べる量を増やせばいいと思うので、もっぱら減量について考えていくことにしよう。 (この項了、次回につづく)