体幹

 クライマーにとって、いや、あらゆるアスリートにとって、体幹は重要である。というか、体幹が重要でないスポーツはないので、体幹が重要である、といったところで、なにも言っていないのとほとんどおなじである。

 

 

 「体幹といったらどこからどこまでだ」という問いはあって、ものの本などにいろいろと定義されてはいるものの、我々としてはおよそ胴体のことだと思っておけば十分だろう。

 

 何とか筋だのカントカ筋だの、いちいちわかっていた方が、筋トレ的には望ましいのかもしれないが、種目を行いながらなんとなく全体が意識できていればひとまずOKで、むしろ名前なんか知らなくても、大抵のクライマーはすでに体がある程度絞れているから、「うっすらこの辺だな」と意識するのは比較的容易と思われる。

 

 ちなみに胴体といえばその名も『胴体力』という本が出ていて、古い本だが割と参考になる。その辺の図書館にもあるので読んでみてもいいかもわからない。

 

 

 体幹の動きでとりあえずわかっていた方がいいのは、動きの種類がそんなに多くないということで、背中を丸めるか反らすか、身体の側面を伸ばすか縮めるか、それから左右の捻り、これらの組み合わせだけである。

 

 

 ここに、筋肉は収縮するか元に戻るかしかない、ということを考え合わせると、たとえば左手左足で右足をフラッギングしながらクロス気味に右手を取る動きを出すとき、左脇腹を縮めてお腹を丸めて左方向に捻る、というように意識することができて、これは3次元的に動こうとする際のひとつのヒントになるかもしれない。

 とくに正対クライマーはひねりをあまり使わないので、たまに意識するといいかもわからない。

 

 

 とはいえ、なんといってもやはり大事なのは登っている自分の動きを動画に撮ることで、背中が上述の六方向に柔軟に動いているようならかなり良い。というか理想的だ。

 

 大抵は硬さが残ったままで、ヘタをすれば背中に板が入っているかのような動きになっていたりする。私はそのクチです。

 もっとも、このへんはあまりぐにゃぐにゃでもアレなのだろうから、固める部分と緩める部分の使いわけが大事になるのだろうな。分離と協働、ということか。

 

 

 なお、クライマーに限らず、身体を動かす遊びをする人にとって、ファンクショナルトレーニングは要チェック事項である。とくにクライミングの動きに関しては、陸上でできない動きが壁の中でできるわけがないと考えておいた方がいい。

 

 このあたりはあまり入りこむと身体操作マニアみたいになってしまうが、身体の感受性が高い人は楽しめるだろうから積極的にトライしてもいいかもわからない。低い人は、高めればいいけど、そればっかりしてもねえ。個人的には正直あまりピンと来ない。

 

 クライミングは、たいていは登れるか登れないかのところをトライすること自体がもっとも面白いので―因果なことにこれが上達の妨げにもなるのだが―、グレードの更新はどこまでいってもその次だし、これを逆転させてしまうのは精神衛生上よろしくない。

 

 したくもないファンクショナルトレーニングや、好きでもない何ちゃらメソッドだのに懸命になって、それでグレードが上がったところで、趣味として長期的に楽しくなくなっては意味がない。コンディションをキープするために好きでもないことを定期的に継続するというのは、完全にプロのメンタルだ。高グレードを登れる人間が全員ハッピーだというのは、そんなのはまやかしだから気をつけよう。

 

 

 さて、体幹レーニングといっても膨大な種類があるので、目移りしてしまうが、さしあたり押さえておくべきは、実際の動きにちかいものを選ぶことと、あまり持久力に焦点を当てすぎないことだろう。クライミングで一分間も固めつづけることってないものね。トレーニング界でいうところの特異性の原則を守っていこう。

 

 

 われわれの多くは、登りに直結することがらには移り気でいろんなトレーニングを試すのに、なぜか体幹レーニングだけはおなじメニューをひたすらつづける傾向があって、それも一日のクライミングの最後におこなう場合がけっこう多い。これだとよけいに疲れるだけで、得られるものは少なくなりがちである。ある程度登りこんでいるクライマーはもう少し先に行くべきかと思う。

 

 基礎的なフィジカルの目安として、プランクが1分できるというのはあるだろうが、それ以上は筋力、神経系のほうに移行していくべきなのではないかと思う。要は強度を出せるようにしていきましょうと、そういう話。「懸垂が15回できるなら、フレンチーズなりマッスルアップをしましょう」というのとおなじである。

 

 漸進的に負荷をかけていくことを念頭に置いて、1回で長くても8秒以内、5回もやったらもうシンドイ、そんな強度の動きを、合間にたっぷりレストを入れつつ行う。フロントレバー、アブローラー、脚前挙あたりが代表的な種目になるものと思われる。

 

 TRXはクライマーの間で人気があるようだが、場所とトレーナーがいないとひとりではちょっと難しい。まともに受講すると費用もかさむし。

 週末クライマーとしては、種目を定期的に変えつつ、高負荷低回数、レストはたくさん、徐々に負荷を上げる、そういった意識で取り入れるのが現実的ではなかろうか。

 

 1分間のスタビライゼーションを何年つづけても、フィジカルは進化しない。ときには刺激を変える必要があると思う。

 体幹を現状維持のためだけのツールにしてしまうのはもったいない。胴体はもっとできる筈だ。以上、連絡おわり。