野田岩

 うなぎ屋か。ルーフ課題でもありそうな屋号だけれど。

 

 いよいよひとりで修業するしかない気がしてきた。プライベートウォールがほしい。欧米のクライマーは土地に余裕があるからか、わりと気軽に壁を建てている(ように見える)。

 

 もともとは80年代後半、ジェリー・モファットあたりがワインカーブを改造して地下でトレーニングをはじめて、たまに知り合いが来てセッションするようになってメチャ強くなる、みたいなノリが源流なのだろうか。知らんけど。

 

 ジェリー・モファットで思いだしたが、彼の自叙伝に、パブだかバーだか店内の桟にぶら下がれるか仲間うちで試し合う、というくだりがあって、暫く姿を見せなくなった奴が久しぶりに来たと思ったら鮮やかに片手ハングしていった、というエピソードが描かれていた。「あとで聞いたら自宅でめちゃめちゃトレーニングしていた」なんて書かれていて―いわゆるコソ練であるー、個人的にこういうのは好きである。

 

 現在のムーンボードはLEDもついて分かりやすくてアプリもあって共有できて便利できれいで快適でたのしくて最高だけど、もとを辿ればこういうところに行き着くのかもしれない。暗くて黴臭くて、どことなくアウトローな、ときおりラングを叩く音と呻き声が響いている、みたいな。わるくないなそういうの。

 

 ま、何せどうにかならんかな。家を買うにも先立つものがない。昔、ウォールつきマンションの営業が都内のジムに飛び込んできたことがあったような記憶があるが、実現したのだろうか。

 

 クライマーズマンション、人ごみに疲れたジムクライマーのためのシェルター。ひとりで黙々と修業したい人間はこの街に一定数いる気がするのだけれど。壁はそれこそムーンボードにすればセッターも要らないし、たとえばマンション内のフィットネスフロアの一角に設置するだけなら、多少ハードルも下がらないか。いわゆるフィットネスピーポーと同居する方が、クライマーばっかりのマンションより住みやすいかも。コミュニティみたくなってもややこしいしな。

 

 むしろ既存のフィットネスジムの中にムーンボード、のほうが可能性は高いかもしれない。いまのクライミングウォール併設型のフィットネスジムでこれが導入される可能性は十分あると思う。セット費と人件費で得する話だから、ムーンボードの営業があるのか知らないが、話をもっていけば割にアッサリまとまるのじゃなかろうか。知らんけど。

 

 ムーンボードって3〜4級くらいからだから初めての人には厳しいか。いや、足自由で独自にテープを貼って5級くらいを3、4本作っておけばいいか。むしろ「こういうもんか」と思ってメキメキ強くなる人がでるかもしれない。

 

 あるいは田舎の公民館とかに壁を建てられないものか。コンパネの一枚板でいい。自由にできる土地があればなあ。昔は公園の石垣など登っていたそうだが―常盤公園でしたっけ―、そのような牧歌的な時代は、とうに過ぎ去ってしまったようである。世知辛い。