バラしの効用

 ムーブが単体でこなせないという事実を己に突きつけるために、バラしは必要なのかもしれない、そんな風に思いはじめた。

 

 これまでは「なまじバラすからつなげ問題が発生するのだ」と思い、「未知の部分があったほうが課題を味わえるだろう」と思い、「バラすのに上まで行くのは億劫だしそれだけで疲れる」などと思っていた。

 

 ムーブを連続して行うのがおもしろいので、単体のムーブをくりかえすのは作業ライクで趣がないと、そう思っていた。途中でできないムーブがあっても、「やってりゃできるだろう」という感覚で、下からひたすらトライしていた。

 

 バラしに積極的なクライマーと、そうでないクライマーとでは、決定的に性格が異なる。どこがどうといわれても困るのだけど、バラしを面倒がるひとは、言っちゃあなんだが不真面目なのかもしれない。実際そういわれて気がついた。

 

 もちろん、クライミングに対して不真面目なのではなく、取り組み方が不真面目なのでもなく―より良いスタイルがあろうとこれは人それぞれだ―、ムーブ解析に不真面目なのだ。こう書くと明確に弱点だと認識されてくる。

 私も人からそういわれて気づいたくらいだから余程アホだが、それでも気がついたのは良いことだ。

 

 そんなことがあって反省した結果、ムーブ解析力はオブザベーション能力の先にあるという、半ば当然の事実にもどってきた。手順、足順から始まって、ホールディングとムーブを措定し、そこからこまかくなっていく、ここのところが、つめられていないのだ。そしてそれを伸ばすのに、実はバラしが最適なのではないかと、そんなところに落ち着いたのである。

 

 でも、バラしを練習としてとらえると途端につまらなくなってしまう。それでどうやったらおもしろくできるかと考えて、ひとまず一手の課題と考えることにした。これなら遊びながらできるものね。

 

 もうひとつ、「登れない課題があった時に当該パートを7回バラす」という方法もある。一手の課題と考えて、数分おきに神経系を休ませてトライするというもの。海外のトレーニングサイトでずいぶん前に見かけたのだが、なんで7回なのかは不明。

 

 すくなくとも、疲れてきたら神経系のトレーニングとしてはやりすぎなのはたしかなので、これを念頭に置きつつ回数は各自で調整せよ、ということだろうか。作業めいてくるから個人的に試したことはないが、これを数週間くりかえせるメンタルがあれば、有効なのかもわからない。

 

 さらにもうひとつ、これもよくいわれていることだが、自分と課題との距離を測る目安として

 

1 ムーブはすべてできるがつなげられない

2 ひとつ、またはいくつかのムーブの成功率が低い

3 課題のどこかのムーブがバラしていくら打ち込んでもこなせない

 

 に分けてみるのも有効である。

 

 それぞれの対処法として1は「打ち込んで自動化する」2は「バラしやパート練を取り入れて効率的に適応する」となるだろう。3のとき、また1や2でもいつまでも登れない場合、その課題は自分にはまだ早いから、何が足りないかを見極めて、精進して―ここに登る以外のトレーニングの入る余地が出てくる―から戻ってこよう。